しっくりくる

起源

 

ぴったりと合う感じのするさま、違和感のないさまなどを意味する表現。
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文脈

 

機械翻訳にかけてみると「しっくりくる」という言葉は、英語で「fit」、中国語では「适合」という言葉に置き換えられるという。確かに大まかに「違和感がない」という意味を置き換えるにあたっては、これらの言葉が適切であるかもしれない。けれども、少し違和感を持つ(まさに「しっくりこない」!)のは、これが身体的なニュアンスをはらんだ言葉であるように感じるからだ。

 

「しっくり」という言葉の語源を調べると、それは着物を仮縫いの状態で身体に合わせてなじませるさまを意味するという。「しっくり」という言葉には、どこか、上質な薄布のようなもので身体を包み込まれるようなイメージがある。布が布として感じられず、自分の身体と全く変わらないかのような動きやすさ、馴染みやすさ。また、なによりも大きいのが、それが、馴染むように作られたのではなく、すでにそれは馴染んでいたという感覚である。人為的に合わせたのではなく、身体に合ってしまった。選んだのではなく選ばれてしまったかのような、人為を超えた感覚がある。だから、「来る」という単語がこの言葉のあとに続くのは、得心がいく。私の意志に関係なく、それは「来る」のだ。音韻としても、shiという擦過音のあとに、kuという丸みを帯びた音が続き(この単語の発音において、kの音はあまり強くない)、riという音が喉の奥で転がる。肌の上を布が通過し、身体の曲線に合わせてふんわりとそれが肌の上に舞い降りるような印象がある。

 

そして、この言葉は、身体をメディアとする舞台表現において根源的な概念ではないかと考える。ここで「身体をメディアとする舞台芸術」という言葉には、舞台上におけるパフォーマーの身体だけでなく、ある一箇所に集うことが要請されるオーディエンスの身体も含まれる。「しっくりくる」ことは、身体と身体とが響き合い、言語未満のコミュニケーションが展開されていることを意味する。